コーヒーブレイク|セイノーロジックス株式会社

【第1話】柱時計の怪

作成者: セイノーロジックス株式会社|2022.09.30

~ セイノーロジックス前社長、渡辺景吾が執筆したエッセイ「ゐねむりゑびす」から ~


二十歳の頃まで、ボクのうちには振り子の柱時計がかかっていた。そのカチコチという規則正しい振り子の音を生まれた時から聞いていたせいか、今でも耳をすませると、どこにいてもそのカチコチという音が聞こえる。この柱時計は、両親が結婚祝いに友人からもらったものだそうで、文字盤には『MADE IN OCCUPIED JAPAN』と書かれていた。戦争を知らないボクにはとても衝撃的な発見で、ああ日本は本当にアメリカに占領されていたんだな、と妙にしんみりしたものだった。ボクが成人になったことに関係あるのか知らないが、二十歳の時に家を建替えて、その柱時計はお蔵入りとなった。

それから十数年たったある日、早めに寝床に入ったボクは寝付けずに天井のシミらしきものを見つけて、そういえば昔の家の天井にはたくさんシミがあって想像をかきたてたなあ、と懐かしい気持ちになっていた。するとグラグラと地震だ。これがタイムスリップというものか、と揺れを背中に感じながら、あの柱時計はどうしただろう、針はグルグルと逆戻りしているのかな、と思った。粗大ゴミに出されたのだろうか、よい人が拾って使ってくれていたらいいのに、とボクは深く空想に浸っていた。すると呼応したように、あの懐かしい柱時計のカチコチという音が聞こえてきた。それもはっきりと。これは重傷だ。

本当にタイムスリップしては大変だ、と原田知世のファンだったボクは飛び起きた。聞こえる。確かにあの柱時計だ。十数年前までうちにあったあの柱時計の音だ。驚きと怖さと好奇心が三位一体となってボクをあやつり、音のする場所へと誘った。押入れの中だ。するととつぜんボーン、ボーン、ボーンと時を告げる鐘の音。三位一体の中から怖さが思い切り顔を出した。「うわ?。起きろ起きろ、みんな起きろ」

父も母も妻も集まって、みんなで押入れを開けた。蒲団がギッシリつまっている。「確かに柱時計の音がする」と父。「そんな馬鹿なことが」と母。どっちでもいいから蒲団を出してみましょう」と妻。そして言われた通りに蒲団を出すボク。

蒲団を全部出すと押入れの奥にはダンボール箱が2つ入るスペースがあった。捨てるに捨てられない微妙なものがギュウギュウに詰まった箱をどけると、そこに柱時計があった。それもカチコチと音を立てて。

振り子は止まっていてもゼンマイは巻かれたままだったようだ。それが地震、それも振り子に対してちょうど左右からの揺れがあったために、長い眠りから覚めたのだ。こんなこともあるのかと感動した。ボクはその柱時計を取り出すと、応接間にかかっていたクォーツ時計をはずしてかけ替えた。

二、三日たって、ようやくゼンマイが切れて、ほッとしたように柱時計は止まった。ボクもほッとした。すごくいいことをした気持ちになった。柱時計は押入れに戻した。