2024.05.31

【第19話】私、ピンクのサウスポー

~ セイノーロジックス前社長、渡辺景吾が執筆したエッセイ「ゐねむりゑびす」から ~


 片岡鶴太郎さんの作品を何度か見たことがある。伊万里の痴陶人窯で修行したとかで、ボクもそこを訪ねてみた。なかなか味わいがある絵付で、そこに書き加えられた文字もいい。ボクがその皿を手にしていると、そこの責任者らしき女性が来て教えてくれた。
「鶴太郎さんは味が出るからと作品の文字はみな左手で書いているんですよ」へ~そうなのか。
 それから思い出したように時々、左手で、箸や鞄を持ったり歯を磨いたり、プッシュフォンを押してみたりキャップを回してみたりボールを投げてみたり、手を振ってみたりお金を払ってみたり鼻をほじってみたりする。今年の年賀状は左手で書いてみた。
 ずいぶん右手ばかり酷使していたものだと左右の手を比べてみるが、特に右手が大きいわけでもない。年に一度ぐらい右手をしばって、左手の日というのがあってもいいなと思う。あたりまえのことって、きっと素晴らしいことなんだ。