コーヒーブレイク|セイノーロジックス株式会社

【第21話】ツチノコ探検隊

作成者: セイノーロジックス株式会社|2024.07.31

~ セイノーロジックス前社長、渡辺景吾が執筆したエッセイ「ゐねむりゑびす」から ~


 学生の頃、クッシーやヒバゴンといった日本産の怪獣奇獣が話題になったことがある。どうして今まで黙っていたのかと思うほど、怪獣を見たという人がたくさん現れ、またこいつらが怪獣じゃないかと思うほど、不思議な評論家もたくさん現れて、むしょうにボクたちの空想と恐怖をかりたてたものだ。河童のミイラや鬼のシャレコウベという定番モノもテレビ局を渡り歩き、しまいには「実は今まで黙っていましたが、ウチの裏山に毛むくじゃらの古代人が住んでいるのです」などという真面目な顔のサラリーマンまで現れた。そんな中で、ずっと話題の中心にいたのはやっぱりツチノコだ。

ツチノコはノヅチともバチヘビとも呼ばれ、万葉の昔から目撃談が後を絶たない。全長三十ー五十センチぐらいで、胴の部分が丸太のように太いらしい。火を吹いたり、口をきいたりするわけではないので、生物学者は「現存の可能性は充分にある」などと不充分な解説をして国民の関心をさらに高めた。そのうち「どうしても本物が見たい」という声が高まってくると、さすがは商魂逞しい新宿の某デパートが、夏休み特大広告を打って出た。

「この夏、生きたままツチノコを捕まえたら賞金一千万円。死んでいてもそれと判るなら賞金五百万円!」

あわれな貧乏学生だったボクはこのWANTEDに躊躇なく飛びついた。半日でさん名の有志を集め、ツチノコ探検隊を結成した。最初のミーティングで話し合ったことは、目的地でも捕獲方法でもなく、賞金の使い道だった。ひとり二百五十万円だから、まず百五十万円は貯金して、五十万円はパアッと使って……でも、十万円は会社訪問用のスーツと靴とカバンと……。

目的地は和歌山と三重と奈良の県境にある瀞八丁という秘境に決まった。そこでの目撃情報はなかったが、地図を見ていてビリビリッときたという理由で決まった。まさに深山幽谷。飲み水は川の水。ボクたちは川岸にテントを張り、2週間の予定でツチノコ探しをすることにした。

山、山、そして山。電柱灯もないし、民家もないので、夜は驚くほど暗くて怖い。どうやってツチノコを捕まえるかも判らないので、偶然の遭遇に期待するばかり。そのうちツチノコなんているわけないと誰かが言い始め、ついにはオマエのせいだからメシの仕度はぜんぶオマエがやれ、とボクを責める始末だ。川魚はソーセージで釣れるほど甘くはなかったので、後半の一週間は全食ボンカレーとなった。マージャンをしているかボンカレーを食べているかの毎日となった。炎天下で裸でマージャンをするボクたちの背中は焼け焦げ、会話はポンとかチーしかなくなった。

真夜中、テントの床が冷たくて焼けた背中に気持ちよく、ボクたちは深い眠りについていた。とその時、とつぜん遠くの山奥でサイレンが鳴り始めた。上流でダムが放流したのだ。川の水位があがってテントの下に入り込んだので、ますます気持ちよく眠りは続いた。しかしそのうちにボクたちの身体がプカプカ浮き始めた。

「おい、なんだ、いったい」
「水が入ってきたぞ」
「やばいぞ、放流したんだ、流されるぞ」

ボクたちは大慌てで荷物を抱えて飛び出した。真っ暗闇の川は怖かった。最後のひとりが飛び出すやいなや、テントは下流に向かってすごいスピードで流れて行った。

これはツチノコの祟りかもしれないと誰かが言い、まじめに働こうとみんなで誓った