2020年の秋ごろから表面化してきた国際物流混乱は、2022年も半ばとなった現在も依然として深刻な状態が続いています。また、海上輸送の運賃高騰は2022年に入ってピークは打つも原状回復には遠く、今なお荷主企業や物流関係者の悩みの種です。
今回の記事ではアメリカ向け貨物の大幅な遅延と運賃高騰を招いた、国際物流混乱の絡み合った原因を解きほぐし、わかりやすい解説を試みます。
また、アメリカ向け代替ルートという現状打破の選択肢についても紹介します。貨物遅延と運賃高騰に悩む国際物流関係者や荷主企業のみなさんは、ぜひ参考にしてください。
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アメリカ向けに輸出を行う荷主企業や物流関係者を悩ませている国際物流混乱の、収束の目処がつくまでにはまだしばらく時間を要するでしょう。
この国際物流混乱はアメリカ向け輸出の遅延と運賃高騰という2つの大きな問題を生みました。それぞれの問題を見ていきましょう。
現在、荷主企業は長期化するアメリカ向け輸出の遅延に頭を抱えています。そもそもコンテナのブッキングが一筋縄では行かない上に、目的の港まで到着したとしても沖待ちを強いられ、入港してからの荷役作業も従来よりはるかに時間を要する状況です。
国際物流の常態化している遅延状況は航路によっても差があり、さまざまな要素が関係するので流動的です。アメリカ向けの輸送に関しては、2022年の中盤までは平時に要する日数のおよそ2倍でした。6月現在の情報では、多少緩和に兆しが見られるようです。
ここで、ジェトロ(日本貿易振興機構)のロサンゼルス駐在員からの報告を紹介します。
港湾混雑が深刻なロサンゼルスおよびロングビーチの西岸主要2港では、2022年に入ってすぐの本来閑散期の1〜2月であっても輸入量が高水準をキープしていたとのことです。
少なくとも2022年の秋までは、全体の混雑状況はそれほど改善しないと同駐在員は予想しています。加えてアジア諸国からはまだまだ続々と船が到着すると見られており、さまざまな対策が施されるも、混雑が解消していく目処が立ちにくいとしています。
コンテナ運賃はパンデミック前のおよそ3~4倍になっており、2021年8月のロイター通信によれば、中国から米国東岸向けのコンテナ船運賃が40フィートコンテナ1個当たり2万ドルを超えました。
また、コンテナ運賃だけでなく、トラック運賃やトラックヤードの費用ほか、さまざまな関連費用も値上がりして物流コストの総額を押し上げているようです。
従来は海路を活用して輸出していた荷主企業も、大幅な遅延を懸念して空路にシフトするケースが頻繁に起きています。その結果、航空輸送の運賃の高騰につながっている状況です。
今回の国際物流混乱は、その原因をたどると非常に複雑です。主要な原因としては以下の6つが挙げられます。
原因1:アジア発北米向け輸出の激増による船腹不足
原因2:港湾作業員不足による処理能力低下
原因3:ドライバー不足による陸路輸送の停滞
原因4:コンテナ循環機能の鈍化とシャーシ不足
原因5:米中貿易摩擦に端を発するコンテナ生産調整
原因6:上海ロックダウンによる物流ストップと新造コンテナ船の竣工遅延
これら6つの原因が生み出す個々の状況が複雑に絡み合い、結果として空前の国際物流混乱につながったと考えられます。そして輸出遅延と運賃高騰という事態を招きました。
ここからは6つの主要原因を、個別に紐解いていきましょう。
国際物流混乱の原因の1つめは、中国からの北米向け輸出量の急激な増加による船腹不足だと考えられます。一般にそのキャパシティはTEUで表します。
船腹不足の深刻化を、時系列に沿って解説しましょう。
2020年1~3月期はパンデミックによって、国際貨物の行き来は大幅に停滞しました。モノの動きが悪くなる上に行動も制限され、当然の結果として世界的に産業界の生産量が落ち込みます。
しかし4~6月期になると、国内の感染拡大をいち早く抑えこんだ中国の電機・機械・自動車などの生産が、他国に先駆けてV字回復を果たします。
ではそうやって生産が全体的に回復して生まれてくる膨大な量の「財」は、どこに行き先を見つけたのでしょうか。
そもそも2018年からの米中貿易摩擦によって、当初世間の論調は「米国内への製造業回帰」に傾き、中国との経済活動の切り離しを意味する「デカップリング」などの考え方が喧伝されていました。
ところがアメリカの実際の経済は、それとはうらはらな方向に進むことになります。
北米のアメリカやカナダ、そしてヨーロッパではパンデミックによってロックダウンが発令され、郊外への移住やテレワークの導入が進みました。その結果、自宅で過ごすための巣ごもり需要の急激な増加を招きます。
一方で、これもパンデミックによる行動制限・外出制限の結果として欧米各国内の工場の稼働率が下がり、需要が増えている生活必需品を含む消費財の国内生産が低下していたのです。
その結果、中国から欧米向けの消費財の輸出は、予想を覆して例年を大幅に上回ります。
巣ごもりのための生活必需品や衣料品、家電、玩具、文具、事務用品、家具などの消費財は、一度は閉ざされかけていた門がこじ開けられ、中国から北米に堰を切ったように移動しました。
そういった状況を受けて、中国をはじめとしたアジア諸国発の北米向け貨物が爆発的に増加し、その結果として船腹不足が顕著になったのです。送りたい需要に対して送るための船腹、コンテナスペースがまったくついていきません。
2021年5月の時点で、中国、日本を含むアジア18ヶ国地域から北米向けのコンテナ輸送量は186.1万TEU(1TEU:20フィートコンテナ1個分の貨物量)にまで昇りました。前年同月比で実に150.6%という結果です。
2021年1〜5月の累計でも883.7万TEUと、前年同期比139.5%の驚異的な増加を示しています。そういった状況の中でのアジア発アメリカ向けブッキングの凄まじい増加で、船腹不足が一気に深刻化しました。
船腹が確保できない荷主企業は、アメリカで荷を降ろして新たな荷を積み戻ってくるコンテナを待つしかありません。アメリカへの往復航路が順調に戻ってきさえすれば、船腹不足は緩和されるはずです。
ところが、そうはいかない事態がアジアにとってのアメリカ側の玄関口、西岸港湾で発生していました。
原因の2つめは、アジア発アメリカ向け貨物の激増とパンデミックによる行動制限から、港湾の処理能力が低下したことです。
コンテナ船の入港が相次ぐ中で、港湾現場の業務はパンデミックによる人手不足に陥りました。コンテナ船の荷降ろしや積込みの処理が、遅々として進まない状態が続きます。
入港したコンテナ船は新たな貨物を積むどころか、まず積荷を降ろすタイミングを何日も沖待ちするという状態が続きました。
原因の3つめは、パンデミックに起因するトラックドライバーの不足による、陸路輸送の停滞があげられます。
陸揚げされたコンテナはトラックでコンテナターミナルから搬出されますが、パンデミックによりドライバー不足が顕在化しているのです。そのため、仕向地への輸送がなかなか完結しない状態が続いています。
港湾の処理能力低下に加えて、陸揚げした貨物を運ぶ陸路の輸送が停滞するという荷受側の問題も、国際物流混乱の長期化を助長しています。
原因の4つめは、輸送が完結した後も空いたコンテナがシャーシ(コンテナを乗せる台車)ごと内陸の倉庫などに放置されたまま、なかなか回収できないことによるコンテナ循環機能の鈍化とシャーシ不足です。
しかし今回の一連の混乱によって、未回収のまま多くのコンテナとシャーシがあちこちに滞留しています。コンテナの循環機能が鈍っているため、空コンテナは不足します。
その結果として、世界規模でコンテナ輸送のブッキングが困難になるという事態が発生しています。また、新たに港湾に着荷するコンテナもシャーシがなければそこから先に進めず、物流が停滞するのです。
国土交通省は、世界的な国際海上コンテナ輸送力及び空コンテナの不足を受けて、日本発着の国際海上コンテナ輸送の需給の逼迫状況の改善に向け、令和3年2月5日付で、荷主、船社及び物流事業者等の関係団体に対し、コンテナの効率的な利用や輸送スペースの確保等に係る協力要請文書を発出し、問題の改善に取り組んでいます。
原因の5つめは、時系列では最も最初に来るものですが、トランプ政権下での米中貿易摩擦に端を発するコンテナの生産調整です。
世界中に流通するコンテナの96〜98%が中国で生産されています。それが米中貿易摩擦によって大幅な減産になったことで、物理的にコンテナの数量が不足しました。
中国のコンテナの大幅な減産の要因には、2018年に勃発したトランプ政権下の「米中貿易戦争」が直接関係しています。米中のお互い強硬な報復措置の応酬が、貿易摩擦を苛烈にしたのは記憶に新しいでしょう。
対米貿易の急激な低迷が長期化し、不活性化することが懸念されたため、当初のコンテナ製造計画から大幅に減算されることになったのです。
2019年には中国での新造コンテナの生産量が、前年の40%減という大幅な減産幅を示します。そして2020年の前半から世界を席巻し始めたパンデミックによって、先行きがさらに不透明になりました。
加えて感染防止の措置により、中国国内のコンテナ工場における生産能力も低下します。2020年の中国のコンテナ生産量は急減した前年実績から、さらに25%減となっていたのです。
かくして米中貿易摩擦により、世界中を行き来するコンテナの絶対数が一時的に減少しました。
原因の6つめは、上海ロックダウンによる物流ストップと新造コンテナ船の竣工遅延です。パンデミック対策として中国・上海市では2022年3月28日からロックダウン(都市封鎖)を開始しました。
当初は1週間以内の短期間という触れ込みでしたが、6月1日の実質解除に至るまで2ヶ月を要しています。
この2ヶ月間に及ぶ上海ロックダウンが、国際物流に与える影響は非常に大きく、解除後の海上物流の混乱も避けがたいと考えてよいでしょう。詳しく見ていきましょう。
世界の港湾別コンテナ取扱量のトップである上海港は、東京港の9倍以上の規模であり、それだけに上海ロックダウンの影響は深刻でした。
上海沖合では入港がかなわず待機中のコンテナ船が100隻を上回り、通常の2倍ほどに増えていたようです。そしてロックダウンが解除されたので、滞留していたコンテナ物流が満を持して一斉に動き出しました。
かつて欧米の巣ごもり需要の急拡大が招いた、船腹不足からくるサプライチェーンの混乱が想起されます。何より、アメリカ西岸はもとより世界各地の港湾における、一層の混雑が懸念されます。
加えてこのロックダウンは、建造中の新造コンテナ船の竣工時期を遅らせてしまう懸念があります。
現在建造中のコンテナ船の竣工ラッシュは23年に入ってからですが、今回のロックダウンで部品供給が滞って、竣工時期が後ろ倒しになる可能性があるでしょう。そうなれば船腹不足がさらに長引き、国際海上物流の正常化がそれだけ遅れてしまいかねません。
国際物流混乱は、2022年2月の中国の春節を境に収束に向かうだろうというのが大方の予想でした。ところがその予想を裏切り、事態はいまだ収束していません。
折しも5月12日には、アメリカ西岸労使交渉が開始されました。
過去の交渉においても、何度も労働争議を起こして港湾の大混乱を招きました。今回の改定交渉においても、港湾業務への悪影響が懸念されます。
ただし、悲観的な材料だけではありません。アメリカおよび各国政府や荷主企業、物流関係者も手をこまねいているだけではなく、それぞれが具体的な対策を講じています。
国際物流混乱は地球規模の問題でもあり、バイデン政権は港湾の24時間操業の開始やコンテナ滞留業者に対する課金、トラック運転手へのインセンティブ導入などの港湾混雑と国際物流混乱の解消をねらった対策を積極的に講じています。
各国の政府や海上運送業者、船会社を含む国際物流関係者も、それぞれの立場で対策を打ち出しています。
外航コンテナ船を扱う各船会社は空になったコンテナを回収するために、臨時の船便を追加投入することで船腹量を増強する方策を実施中です。また、船舶の大型化や新規コンテナ本数の追加を図っています。
一方、日本の荷主企業は他社とのコンテナの共用や他の輸送手段(鉄道・航空・陸送)も活用し、あるいは混載輸送業者のコンテナスペースを活用して輸送を実施しています。
混乱改善のため、各国関係者や関連組織がさまざまな工夫を進めています。
前述のジェトロ駐在員の予想と同様に、少なくとも2022年の秋頃までは同じような港湾の混雑状況が続くのではないかと、多くの関係者は見ています。年内に解消の兆しを見るのは難しいというのが、彼らの共通の見方です。
荷役の遅延や陸路輸送の人材不足の解消は、各地の感染拡大状況と抑止措置次第であり、見通しは立ちにくいようです。
前述のアメリカ西岸港湾労働協約の改定交渉にも注視が必要です。
国際物流関係者や荷主企業のみなさんは、現状を受け入れて、ビジネスが回るように手を打つことが必要でしょう。
そこで、アメリカ向け輸出を円滑に進める有効なアプローチとして、ブッキングが困難な直行便以外の選択肢を紹介します。
混載コンテナによる海上混載輸送(LCL)サービスを手がける当社(セイノーロジックス株式会社)は、本船のスケジュール変更やノーサービスが相次ぎ、スペースもタイトな状況を打破するための、新たなルートの混載輸送サービスを用意しています。
安定輸送が難しいアメリカ向け貨物輸送の、直行便以外の選択肢として代替ルートを開発し、展開しています。パナマ経由、ロッテルダム経由、釜山経由など複数の選択肢があり、お客様の状況に応じて最適なルートをご提案します。