2024.07.25

北米東岸労使交渉がもたらす物流への影響は?

北米東岸港湾の労働協約は2024年9月末の期限を目前に控え、世界中でその動向に注目が集まっています。港湾労働者と雇用主の間で行われるこの交渉は、物流の円滑な運営に密接に関わっており、北米だけでなく世界経済全体にも影響を及ぼす可能性があります。

本記事では労使交渉の背景、主要な論点、影響と対策について掘り下げます。

※2024年10月4日情報更新

1. 北米東岸の労使交渉とは

北米東岸港湾では、労働者を代表する国際港湾労働者協会(ILA)と、雇用主を代表とする米国海事同盟(USMX)が、おおむね6年ごとに労働協約を締結しています。

2018年に締結された前回の労働協約が、今年2024年9月末をもって期限切れとなるため、両団体の交渉がすでに始まっています。

1.1. 国際港湾労働者協会(ILA)

国際港湾労働者協会は大西洋岸・メキシコ湾岸・五大湖・米国の主要河川・プエルトリコ・カナダ東部・バハマ諸島など200以上の地方支部を有する、85,000人以上の港湾労働者を代表する北米最大の海事労働者組合です。

1.2. 米国海事同盟(USMX)

米国海事同盟は港湾使用者の利益を代表し、労働条件や賃金の交渉を行う労働組合です。会員は運送業者・コンテナ運送業者・海上ターミナル運営業者・東海岸およびメキシコ湾岸の各港を代表する港湾協会で構成されています。

2. 労使交渉の争点は荷役自働化

国際港湾労働者協会(ILA)と米国海事同盟(USMX)が2018年10月1日に締結した労働協約は、2024年9月30日に期限を迎えます。

前回2018年の交渉では、米国海事同盟(USMX) がコンテナ輸送の無人化を提案し、国際港湾労働者協会(ILA)が完全自働化荷役は雇用減少につながるとして反発。交渉が中断する場面もありましたが、同年9月26日に締結された労働協約では自働化に関する新しい条項が付け加えられました。

・新たな全自働化ターミナルを建設せず、全自働装置も使用しない
・双方団体が合意に達するまでは、半自働化装置や技術を導入しない

3. 世界で広がるターミナル自働化

コンテナターミナルの自働化は1993 年のロッテルダム港での導入を皮切りに、欧州・アジア地域で導入が広がりました。日本では2008年に名古屋の飛島南コンテナ埠頭で初めて導入され、横浜や神戸など主要港での導入が進められています。

アメリカでは2014年にロサンゼルス市TraPacコンテナターミナルで自働荷役システムを初導入したものの、自働化推進による雇用減少に港湾労働組合が強い危機感を持っていることで交渉が難航し、他国と比較して導入がやや遅れている状況が続いていました。

状況が一変したのは、2020年以降のCOVID-19によるサプライチェーンの世界的混乱。雇用主側は「ターミナル自働化は雇用を削減するものではなく、安全性向上に寄与するもの」と説得したうえで、北米でもようやく自働化が進み始めています。

名古屋海洋博物館、飛島ふ頭にある自働化コンテナターミナルを100分の1の大きさで再現した電動模型

3.1. 北米西岸労使交渉も荷役自働化が争点

2022年に実施された北米西岸の労使交渉でも、国際港湾倉庫労働組合(ILWU)は一貫して荷役自働化を「労働者の業務を奪う脅威」と見なし、荷役業務自働化が最大の争点になりました。

また、西岸での交渉が進むのと同時期に、COVID-19によるサプライチェーンの世界的混乱も広がり、船荷貨物の滞留・遅延も発生。全米49の業界団体がバイデン大統領に積極的な関与を要請したことでも、注目を集めました。

前回の労働協約の失効から1年以上が経過した2023年7月に、ようやく最終合意に至りました。最終合意の際は労働省のジュリー・スー長官代行の関与も言及されており、妥結に当たってバイデン政権が仲介の役割を果たしたとみられています。

4. 北米東岸で進む労使交渉の現在

ようやく西岸の労使交渉が締結した2023年、東岸ではすでに2024年9月の期限に向けて交渉が始まっていました。西岸同様、東岸でも自働化による雇用減少への警戒が争点になっています。

港湾の自働化と新技術の導入は世界各国の主要港で進められており、効率化とコスト削減のためには避けて通れない道でしょう。

国際港湾労働者協会(ILA)は前回2018年の交渉から一貫して「荷役自働化の進展は労働者の職を奪う可能性がある」として慎重な対応を求めていますが、一方的な拒絶を意味するものではなく、自働化により職を奪われた労働者の再教育や再配置など、労使双方の合意を形成しながらの導入を求めています。

4.1. 荷役自働化をめぐり、ILAが交渉を中断

2024年6月、国際港湾労働者協会(ILA)は、米国海事同盟(USMX)との交渉を中断すると発表しました。

国際港湾労働者協会(ILA)の発表によれば、オランダの港湾運用会社「APM Terminals」と、デンマークのコンテナ輸送会社「Maersk Line」が、ILAの人手を使わずにトラックを自律処理するオートゲートシステムを使用していることを発見。

国際港湾労働者協会(ILA)の首席交渉官を務めるダゲット会長は「USMXの主要企業の一つが、自働化によって雇用を削減することを目的として協定に違反し続ける限り、新たな協定を交渉しても意味がない」と、交渉の中断を表明しました。

また国際港湾労働者協会(ILA)は協定を違反した外国企業だけでなく、「バイデン大統領が米国労働者の苦境から目をそらしている」と指摘しています。

4.2. ストライキの可能性は?

国際港湾労働者協会(ILA)では、2023年10月の時点でストライキに備えるよう指示を出しており、米国の海事情報誌各社はストライキの可能性が高まっていると分析しています。

国際物流を分析するゼネタ社のブログでは「ストライキの可能性が本来高いのは西岸、だが今回は違うかもしれない」と、今回は北米東岸でストライキが発生する可能性を示唆しています。また「ストライキ単体であれば雇用側も対処できるかもしれないが」とも述べ、ストライキ以外の複数要因を併せた場合の物流混乱に懸念を示しています。

その他の要因は北米東岸の労使交渉の滞りだけでなく、
・運送業者の多くが紅海地域を避けている状況
・地中海とアジアの深刻な港湾混雑
・パナマ運河の通航制限(現在は緩和されつつある)
など、世界規模の要因が複数重なることで、大きな混乱を招く可能性があることも指摘されています。

4.3. アメリカ国内での動き

2024年7月現在、アメリカ国内の事情として、11月の大統領選挙による影響も無視できません。「史上最も組合寄りの大統領」を自称するバイデン大統領は、昨年、自動車産業のストライキ現場を訪問し、今年4月には全米鉄鋼労働組合(USW)本部で演説するなど、労働者層の支持を拡大するための動きを活発化しています。

国際港湾労働者協会(ILA)の声明により交渉が中断されてから約2週間後の2024年6月下旬、米国の158にのぼる州・全米の業界団体が、バイデン大統領に交渉再開のための介入を要請する書簡を送ったとの報道がありました。

この書簡でもゼネタ社の分析記事と同様に、紅海地域におけるフーシ派の攻撃、港湾混雑とコンテナ不足、運賃上昇など、サプライチェーンに対する複数の不安要因が指摘されています。

期限切れから一年以上も最終合意に至らなかった北米西岸の労使交渉も踏まえた上で、北米東岸の交渉が同様の停滞と混乱を招かないよう、政府にあらゆる支援を提供するよう訴えています。

4.4. 最新の動き

※2024年10月3日追記

北米東岸港湾の労働組合である国際港湾労働者協会(ILA)が、現地時間(EDT:アメリカ東部夏時間)10月1日(火)午前0:01より、アメリカ東岸およびメキシコ湾岸全域にてストライキを開始しました。

国際港湾労働者協会(ILA)と使用者団体の米国海洋連合(USMX)の間で交渉が続いております。

※2024年10月4日追記

現地時間(EDT:アメリカ東部夏時間)10 月 1 日より開始しておりました国際港湾労働者協会(ILA)によるストライキにつきまして、10 月 3 日に使用者団体の米国海洋連合(USMX)との賃上げ交渉が暫定合意に達した旨を共同発表し、ストライキは中断されました。

5. クリスマス商戦に備える動き

2022年にはCOVID-19による世界的なサプライチェーンの混乱に加え、北米西岸労使交渉によるスローダウンも実施され、沖待ちが増加しました。日本でも、自動車メーカーが部品輸送に空路を利用したり、ファストフード店が販売の制限や中止を強いられるなど、多大な影響があったこともまだ記憶に新しいでしょう。

2022年の状況を振り返るコラムや分析記事では、混乱を避けるための代替ルート活用を指摘しています。選ばれた主な代替ルートは、航空便、カナダなど近隣国の港湾から内陸輸送、米国東岸からの内陸輸送の3種類が挙げられています。

今回の東岸労使交渉においても、なかなか先の見通しが立たないなかで、クリスマス商戦も刻々と近づいています。貨物量が増える第3四半期を意識して、すでに代替ルートを検討・試験運用・確保する企業が増えています。

5.1. 刻々と変化する現代に、柔軟な選択肢を

米国東岸の労使協約は2024年7月現在で交渉が中断されているものの、争点となっている荷役自働化の問題だけでなく、大統領選や紅海情勢の影響、パナマ運河の通航規制など、さまざまな要因が絡み合って、合意までの道筋がまだ見えていない状況と言えるでしょう。

次々と変化する現代の国際情勢では、さまざまな状況に応じた柔軟な選択肢を活用して、輸送の安定性を高めることも大切です。

セイノーロジックスは、アメリカ向けの混載輸送において20年以上にわたる豊富な実績があり、西海岸ロサンゼルス港経由で東岸へ運ぶIPI輸送*サービスも提供しています。今回の労使交渉で混乱が生じた場合でも安心してご利用いただけます。

*IPI(Interier Points Intermodal)輸送:アメリカ西岸まで海上輸送し、その後トラックや鉄道などの内陸輸送を組み合わせて中西部や東部まで輸送する複合一貫輸送

砂漠を横断するユニオン・パシフィック鉄道の貨物列車

混乱が生じてから慌てて別のルートを探すよりも、あらかじめ備えとしてルートを複数確保しておけば、いざという時の対応にゆとりが生まれます。選択の余地があるうちに、複数のルートを試験的にご利用いただくこともお勧めしています。

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参考文献

Master Contract 2018 - ILA Union
https://ilaunion.org/wp-content/uploads/Master-Contract-2018.pdf

ニューヨーク・ニュージャージー港及びサバンナ港の港湾経営 - 公益財団法人 国際港湾協会協力財団
https://www.kokusaikouwan.jp/wp/wp-content/uploads/2019/11/2017_1.pdf

U.S. port strike fears grow as ILA halts negotiations with USMX – MARINELOG
https://www.marinelog.com/inland-coastal/ports-terminals/u-s-port-strike-fears-grow-as-ila-halts-negotiations-with-usmx/

Another Threat Of Longshore Strike – The Waterways Journal
https://www.waterwaysjournal.net/2024/06/21/another-threat-of-longshore-strike/

Labor strike fears at US East and Gulf coast ports – where do shippers go from here? - XENETA
https://www.xeneta.com/blog/labor-strike-fears-at-us-east-and-gulf-coast-ports-where-do-shippers-go-from-here

米西岸港湾労使、新労働協約で暫定合意。期間は6年 - 日本海事新聞
https://www.jmd.co.jp/article.php?no=287569

まとめ

2024年9月末に期限を迎える北米東岸港湾の労働協約。交渉はすでに始まっていますが、合意に至るまでの道筋は依然として不透明です。
国際港湾労働者協会(ILA)による交渉中断の要因でもあり、今回最大の争点である「荷役自働化」は、先々の港湾労使交渉で引き続き議論されていくと予想されます。

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