米中貿易摩擦やパンデミック、アメリカ西岸港湾の大混雑や世界規模の物流の混乱などが絡み合って、海上コンテナ輸送は遅延が長期化しています。部品を輸入する北米の工場などは、必要な部品が届かなければ製造ラインに大きな影響を及ぼします。
今回の記事では各分野に深刻な影響を及ぼす海上コンテナ輸送の、特にアメリカ向けの対応策として弊社(セイノーロジックス株式会社)の「アメリカ向け代替ルート」についてご紹介します。
アメリカ向け代替ルートを運用し始めることになったきっかけは、2002年のアメリカ西岸港湾労使交渉(労働協約の改定交渉)の決裂による西岸港湾の混乱です。
なお、アメリカ西岸労使交渉については以下の記事にて詳しく解説されていますので、参考にご覧ください。
この労使交渉は、アメリカ西岸港湾施設で働く労働者の組合ILWUと雇用主を代表する団体PMAとの労働協約改定交渉です。現在では6年ごとに行われますが、従来は3年ごとでした。基本的には大きなトラブルもなく、港湾業務が止まるようなこともありませんでした。ところが2002年に初めて労使交渉が決裂します。
意図的に業務を遅延させる労働者側のスローダウン戦術に対抗して、雇用主側は史上初の完全なロックアウトに踏み切りました。このような非常事態で港湾機能が停止した際には、メキシコ経由で荷揚げし陸路で運ぶルートがまず思い浮かびます。
しかしながら、コンテナ1本を使い切るFCL(Full Container Load)に比べ、コンテナ1本に満たないLCL(Less Than Container Load)にとって保税のままメキシコ国境を超えるのは、手続きが非常に煩雑であるという問題がありました。
このときは、アメリカ西岸に超えられない大きな壁が築かれているイメージであり、課題は壁の向こうにあるロサンゼルスの保税倉庫にいかにして貨物を届けるかでした。そこに届けさえすれば、全米の70以上ある保税倉庫に問題なくアクセスできるからです。
そこで弊社ではメキシコ以外の代替ルートとして、カナダのバンクーバー経由代替ルートを選択しました。バンクーバーで陸揚げしたのち、保税トラックで西岸を陸路で南下し、弊社が拠点としているロサンゼルスの保税倉庫まで輸送しました。
とはいえ、バンクーバーも西岸港湾混乱の影響を受けてひっ迫しやすく、輸送の安定性に欠けるため、新たな代替ルートの確保が重要であると考えました。
その後、2014年の労使交渉において、弊社ではアメリカ東岸(NEW YORK ALL WATER)経由のサービスを選択し、用意しましたが、現在はそのALL WATERルートの本船スペースもひっ迫しているため、新たなサービスの開発を進めることになりました。
そこで生まれたのが以下の2ルートです。
パナマ経由アメリカ東岸向けルート
ロッテルダム経由アメリカ東岸向けルート
アメリカ東岸向けの「パナマ経由アメリカ東岸向け混載サービス」は関東・関西・名古屋受けで、パナマを経由してアメリカ・ニューヨークに輸送します。
パナマ経由ニューヨーク向けのトランジット・タイム(T/T)※1は東京発の場合、ニューヨークまで50日程度※2です。ニューヨーク到着後は内陸仕向地への輸送も手配できます。
弊社は従来から、パナマを中南米・カリブ向けサービスのハブとして混載輸送サービスを提供してきました。パナマ現地代理店は、同国最大手で信頼できるNVOCC(Non-Vessel Operating Common Carrier)であるPIER 17 PANAMAです。
2021年の秋から現地に日本人駐在員を派遣し、代替ルートのサービスにおいてもこの駐在員との緊密な連携をもとに、スムーズなサポートを展開しています。
※1 船積み港を出て仕向け港に着くまでの航海日数
※2 参考日数
アメリカ向け輸送は一般的に東廻りに出発しますが、弊社は西廻りの「ロッテルダム経由アメリカ東岸向け混載サービス」にてアメリカ東岸のニューヨークに輸送する代替ルートを開発しました。
経由地でのオペレーションをより円滑に行うため、日本を出発する時点でアメリカ向け貨物に限定しコンテナを仕立てます。その後ロッテルダムでリコンソリ、ニューヨークまで輸送します。ロッテルダム経由ニューヨーク向けのトランジット・タイム(T/T)※1は東京発の場合、ニューヨークまで70日程度※2です。
※1 船積み港を出て仕向け港に着くまでの航海日数
※2 参考日数
このサービスではヨーロッパの日本人駐在員およびアメリカの日本人駐在員が密に情報交換し、しっかりと輸送を連携します。ニューヨーク到着後は、内陸仕向地への輸送も対応できます。
なお、このロッテルダム経由のルートはスペース・混雑状況次第でスケジュール公開いたします。ご利用の際はご相談ください。
代替ルートの経由地としての選択肢は多く考えられますが、弊社はパナマとロッテルダムを選びました。
ルート選定に欠かせない絶対条件は2つあり、それは円滑な輸送をサポートするためにそのエリアに駐在する弊社の日本人メンバーが必要であることと、弊社と経由地、仕向地それぞれの輸送ネットワークがつながっていることでした。その2つの条件を満たすのが、パナマとロッテルダムです。
一般的に代替ルートを考えた場合、カナダ・メキシコ・近海のアジアなどがハブとして候補に挙がります。
一方、弊社にとってパナマは従来から中南米エリア向け重要ハブとして機能しており、また日本人駐在員と現地代理店との信頼関係も構築できており、十分な利用実績があります。
弊社が扱う従来の中南米向けサービスは、パナマで混載コンテナを陸揚げし、リコンソリして貨物をその先の中南米の各仕向地に届けるというものでした。
このパナマが、そもそも北中南米の中間に位置することに注目し、従来の「中南米のハブ」としてだけでなく「北米のハブ」として機能させることにしました。こうして本格的なアメリカ向け代替ルートとして開発され、パナマ経由アメリカ向けのサービスとして展開しています。
ロッテルダムも従来からヨーロッパ向けの主要ハブとして機能していた拠点ですが、日本人駐在員がいることと代理店と非常に良好な関係を築けていたこともあり、アメリカ向け代替ルートとして開発しました。
海外では、仕事に対する姿勢や貨物に対するきめ細やかさが日本と異なる場合があります。セイノーロジックスは日本人駐在員を世界各地に派遣することで、現地でも日本的ビジネスカルチャーの理解・浸透を図り、円滑に対応できるように心がけています。
アメリカ西岸労使交渉の先行きが不透明、かつ直行便のスペースが限られている中で、安全な輸送手段を安定的に確保するために提供しているのが弊社の代替ルートです。
直行便を基本としながらも、手配が困難なタイミングにおいては柔軟なブッキングが可能となります。パナマ経由東岸向けサービスやロッテルダム経由東岸向けサービスはともに急ごしらえの脆弱なルートではなく、すでに実績を伴う代替ルートとして提案しています。
なお、アメリカやパナマ、ヨーロッパの各駐在員の現場からの情報を以下の記事で特集していますので、ぜひ参考にご覧ください。
「ロサンゼルスで陸揚げしたものの、港湾混雑の影響で内陸鉄道の接続に大幅な遅延が発生し、顧客企業が絶対に必要な貨物が納期中に届かない…」
弊社はそのようなケースのために、ロサンゼルスからシカゴ向けに最短4日で輸送するエクスプレスサービスを開発した事例があります。
事の発端は、日本の大手電子部品メーカー様の部品の輸送において、内陸鉄道が遅延しておりロサンゼルスから先に進めなくなっていたことです。
納入先企業様が製造する製品は最高水準の高付加価値商品のため、主要部品は日本から届くハイクオリティのものが使用されており、代替も利かず、この部品到着が遅れると先方のビジネスに莫大な機会ロスを生んでしまう状況でした。
そこで弊社の日本人駐在員が現地ネットワークを駆使し、専用トレーラーをチャーター。ロサンゼルスCFSからシカゴCFSまで、最短4日で届く毎週便の直行ルートを確保し、サービスとして提供できることになったのです。これがLE66というサービスでした。
この事例のように、世界各地に派遣された日本人駐在員たちは現地で培ったネットワークを活用してトレースから手配まで、柔軟で確実な輸送サービスを提供できるよう日々対応しています。